社会

パエトーン

山岸涼子作「パエトーン」が、Web上にて無料公開されています。

こちら

1986年のチェルノブイリ原発事故を受けて、

1988年にASUKA(角川書店)で発表された短編。
是非、ご一読を…。

ずっと以前に読んでいたのですが、まだ当時の私は、
チェルノブイリの事故については、遠い外国の出来事
という感覚でした。

今から20年以上も前に、山岸涼子さんは、それを
日本にも起こりうるものとして、警告していたんですね。

そして原子力を扱おうとする人間は、ギリシャ神話に出てくる
パエトーンという若者と同じではないかと。

以下は、ギリシャ神話。

パエトーンは、太陽神の息子であることの証に、
一日だけ日輪の馬車を貸してくれるよう父に頼みます。
全知全能のユピテル神(ゼウス)でさえ扱うことができない
炎を吐く四頭の駿馬と黄金の車。
太陽神ポエブス(アポロ)は、他の願いにするよう頼みますが、
パエトーンは受け入れず、父に約束を守らせます。

(以下は、山岸涼子先生の作品の原文より)

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神々ですら
御する事のできない
物を驕った人間に
どうして扱えよう

たちまちの
うちに
四頭の駿馬は
狂奔し 炎の
車は軌道を
はずれて
暴走した

こうして地上に近づきすぎた
日輪は広大な地域を
焼き払い

森も山も その
住民たちとともに
煤塵と化した

パエトーンは
手綱一本扱えず
ただ恐怖で
すくみあがり

いたるところで破裂する
大地・干上がる海
ひからびる熱砂の町を
見やるだけだった

この時 全能の父
ユピテルがこのままでは
万物が滅びてしまう
だろうと考えて
パエトーンめがけて
稲妻を投げつけた

パエトーンは炎と化し 御者を
失った馬車は こなごなに壊れ
あたり一面に飛び散って消え去った

これは遠い昔
神になり代われると
思い上がった若者の
愚かな物語です

しかし
この悲劇は
太古の昔話
では終わらず

今またこの現代に
これと同じ事が
繰り返されようと
しているのです

1986年4月26日午前1時23分
ソビエト ウクライナ地方
チェルノブイリ原子力発電所

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この導入部分から、山岸涼子先生により、
チェルノブイリ原発事故の恐ろしい実態や、
原子力発電のしくみについてのわかりやすい説明、
日本で原発事故が起こった場合、どうなるか
ということについて描かれています。

また、水力や火力発電で、日本の電力は
まかなえていたと訴えます。

それでも日本に原発を造る理由は、
一部の人の利害のためと言いますから、
なんと愚かなことでしょうか。

原子力発電所から出る放射性廃棄物は、日本だけで
数十万本以上のドラム缶につめられているとのこと。
プラトニウムの半減期は、2万4千年。
その間の安全を誰が保障できるでしょうか。

こんな危険なものを生み出し続ける原発の、
どこがクリーンで安全なエネルギーと
言えるんでしょうか。

人間は、なんというものに手をつけてしまったのか、
と思います。

作品中では、このように語られています。

以下、原文より

-----------------------------------—

半減期が何万年という死の灰・放射能を
どこかに捨ててよい時期など
半永久的にやってこないのです

私たちは、この事実をどうすることも
本当にどうすることもできないではないですか!

でも…なぜこんな人類がどうする事もできない物が
ウランという形でもって自然界に存在していたのかしら?

しかし答えはこうでした
このような放射性元素は
超新星の爆発で作られたのです

つまり地球がこの宇宙に誕生する時
必要なものだったのです

太陽は今も核融合しています
地球は太陽のその恩恵をこうむっているのです

しかし核融合は太陽の規模でこそ初めて可能なのであり
地球上で行うべきものではないのです

太陽に匹敵するエネルギーを手に入れようなど
それこそパエトーンと同じ愚かな事なのです

~中略~

核はその熱以外は放射能をまき散らす物でしかなく
放射能を克服できないうちは
その辺の飛行機一つ飛ばす事のできないものなのです

(まさかねえ 頭上で放射能をまき散らすわけにも
いかないでしょ)

~中略~

チェルノブイリの悲劇は起きてはならない事が
起きてからでなければ謙虚になれない人間の
悲しい性である

と どこかに書かれてありました

まさしくそのとおりです
だからこそ今目一杯謙虚になりましょうよ

わたし達は原子力発電の安全性も解決できぬうちに
つっ走ってしまったのです

その傲慢さを恥じながらも
今 わたし達にできる事は原子力発電の即時停止を
実現することだと思うのです

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このように結ばれています。

抜粋ばかりで申し訳なかったのですが、
電子書籍を読むことのできない方のために、できるだけ

この作品の内容がわかるように書いてみました。

この内容も、ほんの一部です。
本当はすべての人に読んでほしい内容ですね。

これから、私たちは原子力のことをしっかり注視して、
今後の日本の再建に向けて、また新たな方向性を
見つけていかなくてはいけませんね。

たくさん書きたいことはあるのですが、
今日はこのへんで…。

2011-03-29 | Posted in 社会6 Comments » 

コメント6件

 stream3 | 2011.03.30 1:21

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人類の英知を集結しても扱えない代物を商業ベースで扱うなんて、人間の奢り以外の何物でもないでしょう。 人は不便な生活に戻る覚悟をするべき時なのではと思っています。 最後に残るのは結局先端技術ではなく、アナログなのかもしれないと思う今日この頃です。

 北村ノア | 2011.03.30 12:01

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>stream3さん
人間の一時的な利害を優先させることにより、
地球上の生命を脅かすことがあっては絶対ならないですね。
人間の手に負えないものを制御できると思いこんだ人間の愚かさ・傲慢さ。
どこまでも無限に使えるエネルギーはないのだから、
エネルギーには限度があるという前提の中で
人間は生きていく必要があると思いますね。

 stream3 | 2011.03.30 12:37

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>北村ノアさん
今回の震災を教訓として活かせるかどうかで
日本人の真価が問われると思います。
今までの自分と、しっかりと向き合う時が来たと
自分はそう感じています。

 北村ノア | 2011.03.30 12:57

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>stream3さん
本当にそうですね。
今までの方向性ではダメだという警告として
受けとめるべきと思います。
ここまでの大きな犠牲が出たのですから、
根底から変わらざるを得ないでしょう。
戦後からここまで来た流れを、ここで大きく
転換していく必要に迫られていると思います。

 3setMEMORI | 2011.03.30 22:46

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すごく教訓になる話です。なんで世に広まらないのかな。
聖書ではないからかな。
原子力発電所は仕組みがわからないけど、今運転している所は続けるのでしょうか。解体も大変そうだし。

 北村ノア | 2011.03.31 1:14

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>3setMEMORIさん
このギリシャ神話は、子供の頃、読んだ気がします。
その時は、(ふ~ん)という感じでしたが、
今は身に迫って考えさせられますね。
福島原発は廃炉にするでしょうが、他の原発をすぐに
廃炉にするというのはないですよね、きっと。
燃料棒が半永久的に熱を出し続けるというのは、
考えてみれば、おそろしいです。