社会

太陽は、天然の原子炉

原子力についての本を探しているのですが、なかなか手に入らず、そんな中でたまたま見つけた天文学の本。

小平桂一著「現代天文学入門」（中央新書）

その中の太陽についての記述が、原子力について考えさせられる内容でしたので、私の覚え書きに、気になる部分だけ抜粋しておきます。

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【天然の原子炉】

人口の太陽をめざした原子核物理は原子核兵器や原子炉を生み出したが、まだ熱核融合炉を実現してない。水素爆弾は熱核融合反応を利用するが、それを制御することができない。太陽と同じように、水素の原子核四個を融合させてヘリウムの原子核一個とするときに発生する熱によって、次々に水素原子核を加速して連鎖反応を起こさせるが、反応を暴走させると同時に反応炉に当る容器をも破壊してしまうところが違う。現在広く使われている原子炉は、ウランなどの重い希少原子核を分裂させる際に発生する熱を利用するものである。この方式では、分裂しやすい放射性元素が、原料としても廃棄物中にも登場するので、取り扱いに細心の注意を要する。

きれいな核エネルギーを求めて熱核融合炉の開発は続けられているが、楽観は許されない。現代文明が、蓄えられた過去の太陽エネルギーを使い果たす前に、人口の太陽を手にすることができるかどうか、人類の未来の分れ目の一つである。あるいは、巨大なソーラーパネルを惑星間空間に設置して、地球に注ぐ五億倍もの太陽エネルギーの流れの一部を受け止めてはどうだろう。

地上の熱核融合炉開発の上での最大の難関は、100万度Ｋ以上の高温のプラズマの閉じ込めにあると言われている。このような高温はすべての個体を溶かしてしまうので、磁場の作用などを利用して、プラズマだけいを空中に安定した状態で閉じ込めておく技術がむずかしいのである。

太陽にあっては、巨大な質量塊が自分の重力作用によってつぶれ込み、内部が圧縮されて高温になり、ついには熱核融合反応による発熱で内部圧が高まって、釣り合いが保たれている。まず万有引力による閉じ込めが先にあって、そのつぶれ込み逆らう形で、熱核融合反応が点火される。中心部で点火され発生した熱は、莫大な量の物質に囲まれていて、容易に散逸することはない。中心の温度が下れば、わずかに収縮することによって発熱反応を促進し、逆に温度が上れば、わずかに膨張することによって熱エネルギーに変えて吸収するとともに、発熱反応を押える。太陽は自動安定装置付きの天然の熱核融合炉なのである。

【太陽の寿命】

こうして太陽は５０億年ちかくにもわたって輝き続けてきた。四個の水素原子核が融合して一個のヘリウム原子核になる際には、ヘリウム原子核の約０．７パーセントに当る質量が熱エネルギーに変換される。現在の総発熱量をまかなうためには、年当り約２×１０の２２乗グラムの水素が太陽内部で燃えていることになる。この調子でいつも燃えているとすれば、約１０００億年で太陽の全質量が燃えつきる。

しかし、炉の壁に当る部分まですべてを燃えつくすことは不可能である。天然の熱核融合炉の構造を計算してみると、全質量の１０パーセントくらいを燃やせると考えたほうがよさそうである。これだけ燃えすすむと中心に灰のヘリウムが蓄積され、炉の構造に変化をもたらし始めるからである。１０パーセントならば、約１００億年は安定して燃え続ける。われわれの太陽は、太陽系の今までの歴史と同じくらいの期間にわたって、これからも輝き続けるものと思われる。

～小平桂一著「現代天文学入門」（中央新書）より～

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